好評発売中のあきたタウン情報2023年1月号の特集は「ラーメンに沼る」。ラーメンの底知れぬ深みにあなたを誘う今回の特集では、「究極の旨さ」を求めて作り続ける、まさに“職人”な店主たちの情熱のわけを知りたくて、「こだわる男たちの座談会」と題した企画を行いました! ここでは、本誌には収まりきらなかった未公開トークを含むロングVer.を公開。普段は聞けない店主たちの貴重な会話をどうぞ!
12月某日、秋田市内の「うまい肴 然」にて、その座談会は開催されたー。参加してくれたのは、横手市の「NOODLE SHOP KOUMITEI」の阿部壽(ひとし)さん、「湯の台食堂」(にかほ市)の佐々木優作さん、「麺や二代目 夜来香」(秋田市)の佐藤堯(たかし)さんの3名。日頃から交流を重ね切磋琢磨し合う、県内の人気店の店主3人が一堂に介した、一夜限りとなるスペシャルな会、スタートです。
※記事内の表記:K=KOUMITEI、湯=湯の台食堂、夜=夜来香、編=あきたタウン情報 編集部
編:皆さんのルーツや、ラーメン店を開くきっかけを改めて教えてください。
湯:就職を機に東京へ行き、テレビで紹介されたラーメンを食べ歩くようになりました。中でも「麺や七彩」が美味しくて、印象に残っていましたね。その後、勤めていた会社で働き続けるよりも手に職を付けたいという想いが強くなり、興味のあったラーメン屋で修業することを決意し、「麺や七彩」に独立を前提で入りました。季節や仕入れによってレシピが変わるし、自分で肉をさばくような店だったので、最初はとんでもない店に入ったなと(笑)。でも、独立した先輩方は全員成功していたので、それを糧に働き続けた結果、今につながっています。
編:その後、秋田へ戻って「湯の台食堂」を開いたということですね?
湯:そうですね、なんとかやっています。
夜:あの立地で、あんなにたくさん人が来るのはスゴイ!
K:本当にね。ついでに行くような場所もないのに。
一同:笑
編:阿部さんのきっかけは?
K:元々洋食をやっていたけれど、ラーメンが好きだったんです。洋食はちょっと敷居が高く食べる人が限られるけど、ラーメンは老若男女に食べられているよなと思っていて、「自分もできるのでは?」「旨いラーメンを作ってみたい」と思い始めました。けれど、実際作り始めたら難しかった。
夜:最初はどうやって作っていたんですか?
K:適当です(笑)。本などで勉強して、「これを使ってみようかな」と食材の代用品を考えながら作ってみました。
夜:すごい。返しとかスープもですか?
K:うん、試作したりしてなんとか。
編:ラーメン屋の人からすると異例なんですか?
湯:東京だと異業種からラーメン屋に転身する人は割と多かったですね。その場合、イタリアン、フレンチ、和食など料理の基礎から逸脱しないと通用しないのが悩みどころになります。一歩踏み込んで、基礎から離れてラーメンに落とし込んでいくと、どんどんハマっていく。
K:洋食をやっていた自分からすると、ラーメンは下に見られているのが残念。パスタだと一皿1,200円でも払うのに、ラーメンだと「え?」となってしまう。「なぜラーメンが下に見られるの?」って思います。
湯:わかります。目指すところは、ラーメンの料理人・職人として確立されることですね。
K:堯くん(たかし・夜来香)は、何がきっかけなの?
夜:元は中華料理人になりたくて、調理師専門学校卒業後に中華料理屋で修業し始めました。ある日、仙台の人気店のラーメンを食べたら、すんごいうまかったんです! それがきっかけでラーメン屋も視野に入れるようになりました。その後、「中華料理屋だけど、専門店並のクオリティのラーメンを出したらどうかな?」と、試作しているうちにラーメン作りのほうが楽しくなって…(笑)。中華とラーメンのスープ作りって全然違うんですよ。中華スープはいろいろな料理に使うので邪魔しないようあっさりとした味にするけれど、ラーメンに使うには弱かったり…。悩んだ結果、最後に修業した中華料理屋の名物がスーラータンメンだったので、それを看板にほかのラーメンも加えて、かつ本格的な中華も出すという2本立ての店になりました。
編:みなさんのスープや素材へのこだわりを教えてください
K:さっきの堯くんの話で言えば、スープのとり方は料理で本当違うよね。洋食だと鶏だったら”ブイヨン”、オマールは”フュメ・ド・ポワソン”という方法があって、例えば鶏は全部洗って使います。それが普通だと思っていたけれど、一度、洋食で使うコンソメを作る際に、その工程を省いた鶏でダシをとってみたら人生最高のコンソメができたんですよ。固定概念が崩れましたね。これはたぶん洋食だけやっている人にはわからないと思いますよ。
湯:深いですね〜。
K:無駄に職歴だけは長いからね(笑)。でも、優作くんや堯くんのような若い人たちと会えて、今はこうした話ができるのでいつも二人から吸収しているんですよ。かわいい後輩だと思っています。
湯:自分は地元の旬の食材でお客さんを楽しませたいと思っていて。それがラーメンとして成立したらなんでも良いんですが、そういう時に阿部さんに相談するんです。「この食材はどう使ったら良いですか?」と聞くと、すぐアドバイスをしてくれる。勉強になりますよね。
編:ラーメン屋さん同士で、そうした話をしているというのは新鮮です!
湯:そうやって聞けるのは阿部さんくらいです。
K:そんなことないでしょ!
夜:そうですよ、阿部さんはすごいです! あと、秋田のラーメンを全国区に押し上げたのは間違いなく優作さんだと思ってます。
K:それは間違いない!
夜:なので、僕は二人のことを尊敬しているんですよ。
K:それで言ったら、堯くんもだよ。何食べても「うめ〜」ってなる。あんなにメニューあるのに、尖らせ過ぎず、万人受けする味を作れるのはすごい!
夜:うちの場合は客層が広いので、自己満足のラーメンを作ろうとは思っていない。地域の人たちの好みに合わせて、想像よりもちょっと上を行くようにしている。自分も秋田市でやっていなければ、もっと尖らせたラーメンを作っていたと思います。
編:実力があるからこそ、その絶妙なバランスがとれるんでしょうね。
夜:二人ともそうですけど、食べにいった時にその人の味だってわかるんですよ。これは阿部さんの味だな〜、優作さんの味だな〜って、そんな味を出せる人って少ないです。二人にはそれがある。
K:うちはそれほどではないよ(苦笑)。
夜:いやいや、阿部さん! うちの娘が一番好きなのは阿部さんのラーメンですよ。「パパのラーメンより阿部さんの煮干しの塩だな」って言ってます(笑)。
編:娘さんが一番グルメ〜(笑)。
K:素材の話に戻すと、特別なものじゃなく、普段から家庭で使うような食材を基本にしています。高級な食材を使えば旨いのは当たり前。そうじゃなくて、誰でも買えるような食材を使って美味しく調理して、お客様からお金をもらうのが料理人なんじゃないかと思います。あとはなるべく地産地消を心がけています。オマール海老※は秋田にはないので(笑)、なるべくですけどね。ちなみにネギは優作くん(湯の台食堂)経由で買っています。
※KOUMITEIは「オマール海老香る味噌ラーメン」が人気。
湯:自分も地産地消を心がけていて、ネギに関して言うと、にかほ市金浦の「前川ネギ」を仕入れています。砂地なのが生育に良いらしく、金額も高くないけど旨いんです。収穫が休みの期間があるので、そういう時にほかのネギを買うと、味が全然違うのでどうしようって思います(笑)。
K:本当、全然違うよね!
夜:ネギに関しては、うちは潟上市のネギ農家に決めているんですけど、そこから仕入れられない時期はネギトッピングが激減しています。ほかのネギが美味しくないわけではないけれど、そのネギが旨すぎる。加熱すると一気に甘くなって、特に旨いんですよ〜。
編:ネギだけでもそんなこだわりが! ちなみに農家さんとはどうやって出会うんですか?
湯:紹介ですね。あとは近場で育てているのがわかれば直接出向いたりしています。うちで使っているフランス鴨は、某テレビ局の人がつなげてくれました。フランス鴨は高級品なんですが、その生産者の方は「フランス鴨を一般の方にも食べてほしい」という想いがあって良心的な価格で提供してくれるんです。実際食べるとやっぱりおいしくて、生産者の想いにも共感できるので、仕入れ続けていますね。
夜:だから、あんなに安く提供できるんですね。
一同:(笑)
湯:生産者の想いは大事だなぁって思いますし、そういった意味でも素材はしっかり選んでいますね。
K:物価もどんどん値上がりしているし、もちろん原価計算もするけれど、何かを減らそうという考えはないよね。自分が今作れる最高のラーメンを出しているつもりなので、その品質を下げる気はない。やっぱり「食べておいしかった。また来る」と言ってもらうのが一番うれしいし、それがあるから続けられています。
湯:食べて「さよなら」じゃなく、ずっと来てもらえなければいけないですしね。「また来ます」が最高の褒め言葉。でも、それを生産者は味わえないんですよ。なので、美味しい食材を生産者が作ってくれて、それを自分たちがより美味しくしてお客さんに渡してあげるという気持ちでやっていますし、「おいしかった」という声を生産者にも届けるのが役目かなって思っています。
夜:優作さん(湯の台食堂)からは、そういうこだわりを強く感じますね。
湯:修業時代から生産者とのつながりは意識していたから。儲けは二の次で、自分が育てているものを広めたいという人たちと関われたのが大きかった。そういう人たちの素材を買ったら無駄にはできない。無農薬のネギだったら、根っこもスープに入れたりとか、生産者の思いと素材の良さをどう伝えるかを考えています。
編:調理法や味は、オープンしてから変わっていくものですか?
K:自分は変わりましたよ。
湯:自分も見た目は同じラーメンだけど、麺もスープも、チャーシューの炊き方や焼き方もちょこちょこ変えています。一杯で飽きられないよう、変化をつける。より美味しくするにはどうすれば良いか、常に考えていて、お客さんの反応を見ながらやっていますね。
編:作り方も常に試行錯誤していると?
夜:そうですね。素材もだけど、作り方も同じくらい力を入れているんじゃないかと思います。
K:自分は煮干しだったら、オーブンでローストする。オマールも前は軽く焼いていたけど、今は低温でじっくり焼いていますね。
編:名物メニューは、変えたくないと思いそうですが、そうではないのですね。
K:飽きさせないってことですね。秋田は人口が少ないので、一見さんだけだとダメなんですよ。
夜:秋田県民って飽きっぽいじゃないですか(笑)。
一同:間違いない(笑)。
夜:スーラータンメンに関しては、親方から引き継いだ味なので絶対変えません。
一同:もちろん、それも大事ですよね。
K:「トマトスーラーまぜそば」とかはオリジナル?
夜:そうですね、スーラータンメン以外は自分の味なので変えています。お客さんにバレないように、ちょっとずつ(笑)。自分のラーメンに合ったやり方が大事なんだと思います。
湯:毎日のことなのでモチベーションを維持するのも大事なんですよね。変化なくやっているとただの〈作業〉になってしまいますが、自分の意志を持ってやると〈仕事〉になるじゃないですか。
編:「これがベスト」になったらやり続けているのかなって思っていたんですが、そうではないのですね。
K:たぶん、ベストって「今のベスト」なんだと思います。自分たちは自家製麺でやっていますが、麺も今のベストなんですよ。粉のサンプルをとったり、配合を変えてみたりしているんですよね。「こうしたらどうなるんだろう?」と日々考えながらやっています。それがなくなったらつまらなくなってしまうので、日々成長していきたいと思ってますね。
夜:自分の場合は変えたことを気づかれたくないので、お客さんの反応を見ています(笑)。
K:わかる。それがおもしろいよね。
夜:変えているのに「変わらずおいしいね」と言われるのが一番うれしいです。魚介系は火加減で一気に変わるから、変える時は勇気がいる。自分は良いと思っているけれどお客さんにどう思われるか、悩んだりします。トレンドも大事にしないといけないし、お客さんに合わせることも必要。
湯:お客さんに「いつも変わらずおいしいね」と言われている蕎麦屋さんほど味や調理法を変えている、という話を聞いたことがありますが、気づかれずに、変わっていくお客さんの舌に合わせていくのが最強だと思います。お店もお客さんと一緒に進化していかないと。
K:素材だっていつも同じものがあるわけじゃないから、同じように調理しても同じスープができるとは限らないしね。
湯:だから大事なのはレシピじゃなく、現状の素材や味を見つめ直すことですよね。
編:調理して、違うと思ったらそこから微調整するんですね。
K:そうそう、足したり引いたりしますよ。例えばスープだって自分のルールはあるけれど、必ず途中で味見します。3時間経ってこの状態なら、今日は長めに炊こうとか。
夜:毎日考えてやっているんですよね。こういうのが読者の皆さんに伝わるとうれしいですね! ラーメンだと価格が低いから、毎日同じように作っていると思われがちだと思うんですが、いろいろ考えながら作っているんです。素材一つ、調理法一つ考えてやっているんですよね。
編:伝わるように善処します(笑)! 皆さんがが今後、やってみたいことはありますか?
夜:県内のラーメン店で集まって、イベントとか出来たら面白そうですよね。
湯:それ、良いですね!
K:ラーメン店同士でコラボするのも良いかもしれない。手始めに、この3店舗でコラボしちゃう?
湯&夜:お〜。考えてみますか!
編:ぜひ実現させてください! 楽しみにしています。宴もたけなわですが、今日はこの辺で。ご協力ありがとうございました!
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